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webディレクターの日々の記憶

バンド物の漫画が絶妙にダサい理由

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遥か彼方より、マンガには様々なジャンルが存在しており、その中には所謂「バンド物」という物が存在する。勝手なイメージだが、ダンスミュージックに比べるとマンガ界でのバンドのパワーはまだ大きく、現実との乖離を感じる所がやや皮肉でもある。(パッと出てくるのはとんかつDJアゲ太郎くらい)

 

しかしバンドをネタにしたマンガはとにかく作者の知識や趣味によってそのクオリティが左右され、生半可な知識や中途半端に古くさい物については本当の本当の本当に背筋に鳥肌経って笑えてくるものもある。また作中に出てくる楽器についても「なんだこれビザールギターかよ」みたいな未知の楽器が出てくるパターンもあるが、ここに対してツッコミを入れていては物事は何も進まないため飲み込んで読み進めるのが正解だと思う。納得するかどうかは本人次第だが、バンドをネタにしたマンガのヤバさの入り口は多分こういう所だ。

 

勝手に浮かんだバンドマンガのダサい所をピックアップしていく。

BECK 

ダサさ★☆☆☆☆

バンド感★★★★☆

 

実写化による水嶋ヒロのやたらと発音の良い「チェミストリー」発言が記憶に新しい。楽器や機材の緻密な描写と微妙に現実のミュージシャンをモデルにしたようなキャラクターなど割とリアルにバンドを描いている。作中のバンドBECK a.k.a モンゴリアンチョップスクアッドのモデルとなるバンドはレイジアゲインストザマシーンのような気がしてる。作中に出てくるルシールという弾痕のついた曰く付きのレスポールに憧れた厨二諸君も多いことだろう。あえて言うのであれば、恐らくミクスチャーっぽいバンドと対峙するX JAPANのようなバンドのプロデューサーの図式がダサいと言えばダサい。

NANA

音楽的な雰囲気★☆☆☆☆

スタイリッシュ感★★★★☆

 

終わったのか続いたのかもよく分かってない。実写化二回やったけど一作目と二作目で主人公のキャスティングが変わっている所に闇を感じる。さすがの矢沢先生、とにかくメンバーみんなスタイリッシュ。思いっきりシド・ビシャスな格好のレンがやってるバンドの音が思いっきりJ-POPっぽい感じが良い。 キャラクターのビジュアルに対して、肝心のバンド感や音楽的な雰囲気はほぼ無いに等しいが、楽器や機材は丁寧に描かれている。やっぱり画力って大事。あとヴィヴィアンウエストウッドとか南京錠とか所謂昔のパンクス的なファッションはたまらないんだろうなとか思う。

NANA 21 (りぼんマスコットコミックス クッキー)

NANA 21 (りぼんマスコットコミックス クッキー)

 

DESPERADO

イオニア★★★

古くささ★★★

 

表紙の左側にいる男を見て欲しい。ベストとジーンズとレスポールカスタムのとにかくハードロック臭がひどい。しかしバンド物に弱い人間は思わず手に取ってしまう。黒須はバカテクのギタリストで超絶速弾きをフルピッキングで弾き倒して周囲を圧倒させるのだが、黒須のレスポールはガリガリに傷が付けられた厨二魂のそそられるいわく付きの一品である。BECKに出てくる弾痕付きのルシールというレスポールと比べるとこちらのレスポールに付けられた傷はヤクザのドスによるものであり、ドス一本でよくもここまで丹念な仕事をした物だなと思う。ギターを始めたばかりの指の皮がやぶけた表現などは非常に泥臭く好感が持てる。ライバルのアイドルバンドがサイレントジェラシーのYOSHIKIみたいな感じで演出したシーンには時代を感じる。

BOY

チーマー感★★★☆

ハードロック感★★★

 

バンド物として良いか悩ましい所ではあるが、たまに出てくるバンドのエピソードや最終回を考えるとバンド物にカテゴライズしても良いのではないかと思う。一条誠はファイヤーガンズというバンドでギターヴォーカルをやっていて、必殺技はピック投げ(手の甲に突き刺さるレベルの強さ)である。作中で再結成されるファイヤーガンズのドラマーの尊敬するドラマーはジョン・ボーナムだし、一条の弾いてるギターには炎のペイントがされている。にじみ出るハードロック感。あと出てくる敵は所謂チーマー的な感じのキャラが多く、ヘルビジョンという薬キメまくりの神崎狂についてはパワー型のジャンキーすぎて日本の高校生という設定はもはやどこへ行ったのか分からない。

BOY 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
 

無頼男

とんでも感★★★☆

上京物語感★★★

 

BOYの後に梅澤春人はバンド物を描きたかったのかなと思いきや、BOYとは逆に最後バンドと違う所に着地したような感じ。ハードロック感はナリを潜め、パンクっぽい雰囲気が強くなった。バンドのギターはモヒカンで練習もないのに、バイト先の牛丼屋にギターを背負って通うパンクスだ。ヴォーカルは天才的な才能の持ち主で今度はこいつが10円玉をデコピンで飛ばして敵の額に食い込ませる技を見せる。BOYの一条といい、色々とおかしい。ドラマーはギャルの女装をしている凄腕で、ベーシストに関しては利き腕に硫酸ぶっかけられてる。上京途中で様々なトラブルに巻き込まれるが、ただ上京するだけでそんなに危ない事が起こるのか。ここは日本ぞ。しかし、主人公の正体が超人気バンドのヴォーカルにも関わらずメンバーが全員それに気づいていない平和な一面も見て取れる。

快感・フレーズ

堕天使感

アクの強さ

 

快感フレーズの突っ込みどころについては言わずもがなである。各自勝手に検索すれば良いと思う。快感フレーズについては何がすごいかと言うと、ここから現実世界へバンドを世に送り出し、堕天使ブルーという名曲を生み出した事に尽きる。さらに言うと作詞に森雪之丞、作曲に元JUDY AND MARYのTAKUYAを起用するというマジっぷり。シングル9枚、アルバムはベストを含めて4枚もリリースしているため、もはや快感フレーズにおいては作中のバンドの話よりも実在したルシフェルの話をする方が正しいと思う。ブルーブルー堕天使ブルー。 

快感フレーズ 1巻

快感フレーズ 1巻

 

あなたとスキャンダル

めでたい感

楽器やばい感

 

バンド物に分類してはいるが中身はバンドを隠れ蓑にした王道な恋愛モノだ。そういう事もあり作中の楽器や機材、バンドや音楽に関してはこだわりはほぼ無い(というかひどい)。ヴォーカルがイケメン(だけど実は女)だったり、主人公はクラシックのピアノやっててバンドのキーボードにスカウトされたり、クールなベーシストに女癖の悪いギタリスト、人懐っこく元気なドラマー。まさに模範的なキャラ立ちしたバンドである。そんな一方でヴォーカルのシャウトにより音響機材をぶっ壊すというロックなシーンもあり、読者を裏切る事をたまには忘れない。基本的にバンド内恋愛が横行しており、プロを目指すという言葉がこれほどにも薄っぺらいバンドもいないだろう。(そもそもタイトルからすでにスキャンダル前提である)

 

 

バンドに対してのイメージが先行するとヤバいみたいな事案もあれば、バンドの感じを再現しようとする物までバンド物は幅が広く、作者のインプット量に比例してアウトプットがこんなにも変わるネタは無いと思う。冷静にバンド物のマンガを読んでいればバンドやってるヤツがモテるなんてのがいかに都市伝説なのかが分かるはずだ。バンドマンがモテるのではなく、モテるヤツがバンドマンだっただけだ。

 

しかしバンド物マンガのダサさに気づいて突っ込んでいるヤツの大半はバンドマンであり、何故自分がこんなにも強烈に拒否反応を示しているのか、現実と虚構の隙間に嵌って身動きが取れなくなっている事に気づかずに今日も天に向かって唾を吐き続けている。